労働相談室Q&A ~入社・退職~
■「懲戒処分をする」と言われました。 会社は、勝手にできるのでしょうか
従業員を懲戒処分する場合、有効要件が6点あります。1.就業規則に該当すること 2.不遡及の原則を遵守すること 3.一時不再理の原則を遵守すること 4.平等取扱いの原則を遵守すること 5.相当性の原則を遵守すること 6.懲戒処分手続を遵守すること 以上の6点から外れた懲戒処分は、無効となる可能性があります。懲戒権の濫用にあたり無効と判断された場合には、懲戒処分を行ったことが民法第90条の不法行為を成立させ、使用者が損害賠償を請求されることがあります。
■試用期間は、1年間と言われました
試用期間は、従業員としての適格性の判定期間であり、従業員としては不安定な地位にあるため、必ず期間を定めなければなりません。ですが、試用期間の長さについては、法令上の定めはありません。実務上は、会社が就業規則に規定する際に、適当と考える長さを設定することになります。実際には、大多数の試用期間が1~6か月の範囲内で設定されており、3か月とする例が最も多いと思われます。通常、この範囲内であれば、試用期間の長さが法的に問題となることはありません。具体的にどの程度の長さまでが法的に許容されるかは、個々の事案によります。1年を超えると、労働者に不当な不利益を強いることになるので、公序良俗違反とし無効となる可能性が高くなります。
■上司から、出向と言われました。出向したくありません
出向は、従業員にとって、労務の提供先が変わり、出向後の労働条件や処遇が大きく変わる可能性があるため、従業員に大きな影響を与える場合も考えられます。このため、出向を命じる根拠が必要となります。出向を命じる根拠として次の3つが考えられます。①労働協約に定めがある ②就業規則に定めがある ③個別の同意がある ①から③までがないまま出向を命じ、従業員がこれを拒否したとしても業務命令違反とはいえません。そのような出向命令には従う必要はないでしょう。但し、その実行には、相当な労力と精神的なダメージも伴うことを覚悟することです。
■私はアルバイト社員です。契約書はないのですか
たとえアルバイト社員であっても、会社は「労働条件通知書」などの書面を交付し、労働条件をしっかり明示する必要があります。特に次の6項目については、労働基準法に基づき、必ず書面でアルバイト社員に明示しなければなりません。①契約期間はいつか ②契約期間を更新する時の決まり ③どこでどんな仕事をするのか ④勤務時間や休みはどうなっているのか ⑤バイト代(賃金)はどのように支払われるのか ⑥辞めるときの決まり 以上は、労働基準法15条で定められています。会社に請求しても、交付されない場合には、職場のある「労働基準監督署」に相談しましょう。
■会社に、誓約書や身元保証書を提出したくない
従業員の方から「誓約書を会社に提出したくない。身元保証書を会社に提出したくない。どうしたらいいのでしょうか」というご相談を受けます。採用後に、会社所定の必要書類を、提出しなくていいのでしょうか。結論としては「従業員は会社所定の必要書類を提出しなければならない」です。正当な理由がないのに、会社に提出しないのは従業員としての義務違反です。試用期間中のタクシー運転手が、誓約書等の書類を提出しなかったことを理由として、運転手にした解雇が有効とされた事例。があります。(昭和40.6.7名古屋地裁決定 名古屋タクシー事件)。判決では「誓約書は同時に身元保証書をも兼ねており、これらのことから判断すれば、書類は会社が従業員を採用するに必要な書類であり、書類が提出されない場合、会社と従業員との雇用関係につき、重大な支障をきたすものと認められる」とされました。提出書類にもよりますが、一般的に、従業員が必要書類を提出しないということは、会社のルールを守らないことです。従業員としてなすべき義務を果たさないことです。 従業員は、懲戒処分の対象になるかもしれません。
■上司から、勤務中の私用メールを注意されました
まず、従業員は、勤務中に「私事」ができるのでしょうか。結論としては「私事ができません」が回答です。従業員は、契約によって、勤務時間中は、その労働力を会社に売渡した時間ですから、その時間中はその職務に専念する義務があり、上司の許可なく勝手に「私事」をすることはできません。勤務時間中の私用メールについても、①送信者が文書を考えて作成する時間(=職務に専念していない時間となります)。②私用で会社の施設を使用する。という、2つの違反行為を行うことになります。次のような判決も参考になります。勤務時間中は、特別の事情のある場合を除き、従業員は「その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務のみに従事しなければならない」(昭和52.12.13最高裁決定 目黒電電局判決)勤務中の私用メールは、厳に慎みましょう。
■パワハラの証拠として録音することは問題でしょうか
パワハラ行為については、問題の言動があった。なかったという水掛け論になりがちです。会話の録音があれば、決着をつけることができます。では、無断録音は証拠となるのでしょうか。無断録音の証拠能力について、学説は分かれております。相手の了解を得ず、知らない間に会話が録音されていることからプライバシー権の侵害などにあたり違法ではないかという説と、原則として合法であるという説に分かれております。この点に関する裁判例として、「著しく反社会的な手段を用いて」採取されたものでない限りは証拠能力は認められるとしたものがあります(東京高裁昭52.7.15判決)」以上のように、無断録音は「著しく反社会的な方法でなければ原則有効」とされており、実際に多くのパワハラ訴訟において重要な証拠となっております。
■『研修・教育訓練』等が労働時間になりますか
■原則:研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その研修・教育訓練の時間は、労働時間に該当しません。
■労働時間に該当しない事例:①終業後の夜間に行うため、弁当の提供はしているものの、参加の強制はせず、また、参加しないことについて不利益な取扱いもしない勉強会。②労働者が、会社の設備を無償で使用することの許可をとった上で、自ら申し出て、一人でまたは先輩社員に依頼し、使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練。③会社が外国人講師を呼んで開催している任意参加の英会話講習。なお、英会話は業務とは関連性がない。
■労働時間に該当する事例:①使用者が指定する社外研修について、休日に参加するよう指示され、後日レポートの提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修。②自らが担当する業務について、あらかじめ先輩社員がその業務に従事しているところを見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学。(出所:厚生労働省)